網膜色素変性症(もうまくしきそへんせいしょう)という病気をご存知ですか?
人の眼の奥にある網膜には、視細胞と言われる光を感じる細胞で出来ています。
この病気に罹患すると、視細胞が徐々に機能しなくなり視野狭窄が起こります。
初期では、光が眩しく感じたり、暗いところで物が見えにくくなったりしますが、進行すると視野がだんだん狭くなる病気です。
原因は遺伝的要素が高いといわれており、日本でも5万人近くの方が網膜色素変性症を患っているといわれています。
いま、この病気の治療において、人工網膜の開発が進んでいます。
今日は岡山大学で研究されている人工網膜OUReP™と、アメリカで開発実用化されたアーガスⅡの二つの人工網膜について解説したいと思います。
岡山大学の人工網膜OUReP™とは?!
光電変換色素分子をポリエチレン・フィルムの表面に化学結合させた人工網膜が岡山大学OUReP™が岡山大学の研究チームにより開発されました。
眼という器官は、光を主に感じる杆体細胞(かんたいさいぼう)と、細かい光の違いや色を主に感じる錐体細胞(すいたいさいぼう)の2種類があります。
角膜を通して入った光や色が網膜に映り、黄斑と言われる錐体細胞が密集する部分から視神経へと電気信号となり送られていくのです。
その信号が脳へと伝わることで、人は光や映像を認識することが出来るのです。
網膜色素変性症は、初期では杆体細胞の機能が低下します。
暗いところで物が見えにくい。
これは典型的な初期の症状です。
やがて進行していくと錐体細胞の機能が低下していくため、視野が狭窄しやがて失明に至るケースもあるのです。
岡山大学チームが開発した人工網膜OUReP™は、この網膜色素変性症の治療で注目を浴びています。
光を吸収しそれを電気的に信号化するための光電変換分子をポリエチレンの薄い膜に結合し、それを視神経の近くに埋め込むことで、網膜の代わりとなる人工網膜です。
大きさは10mm程度のもので、薄くて柔らかい特性を持っています。
そのため、極めて小さな切開で、眼球の中に埋め込むことが可能になりました。
網膜色素変性症では、視神経自体は生きていますので光の電気信号を視神経に送ることが出来れば視力を回復させることが可能なのです。
すでにラットの試験では、実証されています。
何より、原材料が安価なため、アーガスⅡに比べると格段に安い価格で治療に活用できると予想されています。
岡山大学大学院 人工網膜研究メンバー
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(医学部)
眼科学分野 准教授 松尾俊彦
自然科学研究科(工学部)
高分子材料学研究室 准教授 内田哲也
アーガスⅡの仕組みと実用事例!人工網膜の機能と、その価格は?
アーガスⅡ(Argus Ⅱ)とは、アメリカのSecond Sight社が開発した人工網膜システムです。
岡山大学の人工網膜はまだ実用化されていませんが、アーガスⅡはすでにFDA(アメリカ食品医薬品局)による認可を受けており、実用化として移植手術が開始されています。
アーガスⅡは、カメラと映像信号発信機のデバイスで構成されています。
サングラスに内蔵されたカメラから通した映像を、信号として送ります。
送る先は、眼球に装着されたデバイスです。
専用のメガネに内蔵された超小型カメラから映像を取り込みます。
そしてその映像データを特殊なコンピューターが電気信号へと変換。
その電気信号は、ワイヤレスで眼球近くに埋め込まれたアンテナへと送られます。
さらにアンテナから網膜の裏側に設置した電極へと電気信号が送られ、その信号がわずかに残った網膜を刺激することで、視神経から脳へと伝わります。
電気信号を光のパターンへと認識する受容体により、脳でイメージとして認識させる。
そういう仕組みでアーガスⅡは映像を認識させることが可能となったのです。。
出典:The Choroideremia Research Foundation – Argus II Available for CHM Patients
しかし、アーガスⅡの解像度は、まだまだ精密とは言えません。
人工網膜が映像として表す情報は50~60ピクセル程度なのです。
また、色彩も認識できません。
出典:http://news.livedoor.com/article/detail/9822696/
ですが、まったく視力の無い全盲の人や、網膜色素変性症により視野が極めて狭くなり視力も失いかけている人にとっては、人の動きや形、存在を認識できるようになるのは、とても大きなことなのです。
また、病気の進行度合いにもよりますが、手術を受けた方の中には、自力で新聞を読める程度まで回復した人もいるのです。
アーガスⅡの手術費用は?
アーガスⅡの手術費用は、日本円にして約1550万円。
誰でも受けられる手術法とは言えない現状です。
網膜の治療における研究について
網膜の損傷や機能低下を回復させる方法として、岡山大学の人工網膜OUReP™やアーガスⅡが注目されています。
岡山大学の人工網膜は、まだ動物実験による成功事例の段階です。
しかし、これがヒトの網膜治療が可能になれば、アーガスⅡよりもはるかに少ない費用で視力を回復できるという期待が持たれています。
また、ノーベル賞を受賞した山中教授の人工多能性幹細胞、通称iPS細胞の網膜移植が再開されることに決定しました。
医学は日々進歩しています。
目の前にある壁を打破しようと、多くの研究者が道を切り開くために日夜努力をしているからです。
今日出来ない事が、明日も出来ないと決まっているわけではありません。
人が歩いたことのない場所を進むことは、元からある道を歩くことよりも難しいことかもしれません。
しかし、人は未知なるものを得るために道なき道を歩くことが出来る生き物です。
それは、神が私たち人間に与えてくれた力。
希望というものを持っているからです。
常に希望という光を見失わないように、生きていきたいと思います。